個性派記者の本音トーク 加藤

【単勝1.1倍が沈没】ナルカミの今後を占ってみよう

個性派記者の本音トーク 加藤
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騎手情報担当の加藤です。

昨日の重賞記事とは違って、今日は新年一発目の競馬から衝撃のワンシーンをピックアップだ。

▼昨日の記事はコチラ

それは1/6(月)の中京で起きた。

単勝1.1倍が飛んだ。

2着や3着じゃない。7着だ。


これがどれくらい衝撃的なのかというと、昨年(2024年)は単勝1.1倍の出走馬が27頭居て、26頭が勝利。勝率にすると96.3%だ。

唯一敗れたのは、中山グランドジャンプ(J・G1)のマイネルグロン(6着)だけ。

ただ、マイネルグロンに関しては不確定要素が平地よりも大きい障害レースであり、かつ最終障害で脚元を痛めていた(レース後に屈腱炎が判明)から、アクシデントの類と言える。

オッズはあくまで馬券購入者が作るものであるから、1.1倍だからほぼ飛ばない……というのは結果論に過ぎないが、それでもココまで支持される馬というのは、基本的には普通に走ればほぼ勝つのが現実だ。


ところが、1/6(月)中京4Rで単勝1.1倍の支持を集めたナルカミは、逃げの手に出て先頭で直線を迎えたものの、失速して7着に終わってしまった。

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2コーナーでは単騎逃げの形
このまま楽勝かと思いきや……?

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直線半ばではすでに失速
(緑帽がナルカミ)

絶大な支持を集めた理由は理解できる。前走・新馬戦でのパフォーマンスがあまりにも若駒離れしていたからだ。これは赤崎記者がレース後に採り上げてくれていた。

▼ナルカミの初戦について

つまり、計算上は“普通に走ってくれれば勝てるはず”の馬ではあった。どこまでファンや新聞社がその数字面を意識しているかは謎だけど。

ただ、それがアッサリ負けるのが競馬の難しさであり、奥深さだ。今回はこのナルカミの敗因にスポットを当ててみたい。

我々記者勢の中では主に3つの敗因があったと考えている。

①あまりにも無謀なペース過ぎた

2025/01/06(月)
3歳1勝クラス
逃げ馬:ナルカミ(7着)

前半1000m通過:61.6秒
決着タイム:【1:53.9(良)】
勝ち馬との着差:0.6秒差

このナルカミが刻んだ前半1000mの通過タイム【61.6秒】という数字、これはハッキリ言ってかなり速いペースだ。

2024年の中京ダート1800m戦・良馬場という条件において、同等のペースで先行したケースは5例あった。

2024/08/25(日)
名鉄杯(古馬OP)
逃げ馬:ロードヴァレンチ(10着)

前半1000m通過:59.7秒
決着タイム【1:51.6(良)】
勝ち馬との着差:4.4秒差

2024/12/01(日)
チャンピオンズC(G1)
逃げ馬:レモンポップ(1着)

前半1000m通過:60.8秒
決着タイム【1:50.1(良)】

2024/08/17(土)
3歳上1勝クラス
逃げ馬:オールスティール(9着)

前半1000m通過:61.1秒
決着タイム【1:53.8(良)】
勝ち馬との着差:3.7秒差

2024/12/01(日)
3歳上1勝クラス
逃げ馬:ポジティブガール(11着)

前半1000m通過:61.1秒
決着タイム【1:51.9(良)】
勝ち馬との着差:3.7秒差

2024/09/28(土)
3歳上1勝クラス
逃げ馬:ピコニ(2着)

前半1000m通過:61.6秒
決着タイム【1:52.1(良)】
勝ち馬との着差:0.8秒差

あくまで良馬場という条件で括っているので、良という発表でも時計が出やすい・出づらいはあるけれど、これくらいのペースで先行すると条件戦レベルでは沈むケースが多い。

ましてや、ナルカミは3歳になったばかり。それでいてレモンポップと1秒も変わらないくらいのペースで逃げたんだから、これで押し切ってたら今年の3歳ダート路線は“無双状態”というくらい期待されたかもしれないな。そうは甘くなかったワケだけど。


ちょっと話は脱線するが、こういう風にレースを分析していくと、やはりこの馬の異常性がよく分かる。今週末の出走予定なので楽しみにしておこう。

2024/09/08(日)
3歳上1勝クラス
逃げ馬:ダブルハートボンド(1着)

前半1000m通過:61.7秒
決着タイム【1:51.2(良)】

▼この馬についてはコチラも参照

②当日のテンションの問題と育成方針

という感じで、厳しい展開になってしまった……いや自らそういうレースをしてしまった格好になったナルカミ。鞍上の坂井瑠星はこう振り返っている。
坂井瑠星騎手のコメント

「初戦とは別馬でした。返し馬からパニックになり、走りの質も良くなかったです。こんなはずではないですから、立て直して改めてです」

というように、当日の気配が決して良くなかったという点は不運だったのかもしれん……いや、本当に踏んで片付けられる話なのかはまだ分からない。

そう、これが今回だけのものと断定できないのもまた事実。というのも、初戦であれだけスピードに任せた競馬をしたということは、それだけ抑え込むことが難しい馬であるとも言えるからだ。


これが競馬の難しさであり、若いうちから抑えずに逃げる競馬をさせた弊害とでも言おうか。コントロールが利きづらい馬になってしまうというリスクは往々にして存在するんだよな。

オレが昨年書いた記事で川田将雅は若駒で逃げる競馬をほとんどさせない。逃げさせた場合は“とりあえず1つ勝たせるスタンス”である可能性が高い」という話をしていたのを覚えていらっしゃる方が居るかもしれない。もしかすると、ナルカミの今後の課題もこの部分になるのかもな。

この川田絡みで言うと、昨年秋にとある若手ジョッキーが2歳未勝利戦で逃げて勝った時に「調教師はそんな勝ち方を本当に望んでいたのか?」と注意したというエピソードがあった。

実は、奇しくもこの馬も単勝1.1倍だったんだよねえ……。能力任せで勝つことが必ずしも正しくないというケースだな。

③右回りならパフォーマンスが改善される?

もうひとつ、現場では『左回りが合っていないのではないか。手前の換え方が初戦と比べてあまりにもぎこちなかった』という声もあった。

これが敗因の中でも大きく響いているのであれば、右回りの舞台なら新馬戦のようなパフォーマンスを発揮できる可能性はあるだろう。今後の番組的に、どう選んでも次は京都・阪神・中山にはなるだろうけどね。


という感じで、今回は『単勝1.1倍の人気馬がぶっ飛んだ』というレアケースの一戦を振り返ってみた。初戦で見せたパフォーマンス自体は間違いなく能力の高さを証明しているので、とにかく陣営がどう立て直すかが焦点。

その上で、今後のオッズを加味して狙うべきかどうかを判断していくことになる。むしろ今回の敗戦で美味しい馬券をもたらしてくれる可能性は増えたかもしれないしな。


ちなみに、これだけ支持を集めているということは、その他の馬のオッズも大変なことになっていたワケだが、

仮にナルカミ以外の単勝をすべて購入して、なるべく均等に払戻しが発生するように資金配分をした場合、合成オッズは【3.35倍】だった。つまり、“ナルカミが負ける”という買い方で資金3倍超が狙えたということになる。

さすがにそういった推奨馬券は我々はやらないけれども、馬券の考え方としてはこういう買い方もできるという点は、覚えておいても良いだろう。

加藤

関西ジョッキーは「だいたい友達」
幼少期に競馬場で武豊を生で見てジョッキーを志し「圧倒的に勝ちまくるユタカとアンパンマンが幼少期のヒーローだった」(本人談)。残念ながら競馬学校入学の規定に合わず夢を断念するも、同じ世界で働きたい一心で業界に飛び込んだ。「最後に馬券を託すのは騎手。騎手なくして馬券は買えない」が座右の銘で、関西ジョッキーはだいたい友達を公言し、騎手エージェント事情にも深く精通している。

騎手を志しただけあって騎乗技術にはとてもうるさく、ほとんどの騎手のクセを手の内に収めている。横山武史、坂井瑠星など、サイト内でブレイクを予告した若手騎手が軒並み大活躍中。

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