個性派記者の本音トーク 加藤

【川田さん、味見しただけ!?】シンエンペラー、皐月賞はまたしても乗り替わり……収穫はあったの?

個性派記者の本音トーク 加藤
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弥生賞が終わった途端、有力馬に早速新しい動きがありましたよ……ってことで、関西ジョッキーは大体トモダチ、加藤です。

ブッシーこと武士沢友治騎手の引退については、昨日佐山さんがガッツリ書いてくれたので、オレは別の話をさせてもらおう。

先週の弥生賞はなかなかの波乱となった。本番に繋がる展開だったかはしっかりと分析しなければならないが、前評判の良かった馬たちがこぞって敗れてしまい、皐月賞戦線は混沌としてきたことは間違いない。

そんな中、結果的に唯一の関西馬となったシンエンペラーは、初コンビとなった川田将雅を背に2着を確保。

相変わらずエンジンのかかりは遅かったものの、すでに賞金面で余裕がある立場であり、言うまでもなく100%には仕上げられていないであろう状況としては上々の内容だろう。

天下の矢作厩舎のことだ、大一番に向けた仕上げ方は熟知している。ココからの上積みは十分見込めるな。

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レガレイラに被ってますが
写真左がシンエンペラーです

ところが、本番・皐月賞の鞍上は川田の継続騎乗ではなく、坂井瑠星になることが発表された。矢作厩舎の馬に瑠星が乗るということに違和感は全く無いが、この時点で早々に決まったことに驚いた方も少なからずいるだろう。

加えて、シンエンペラーはこれでデビュー戦から5戦連続で別のジョッキーが乗ることも確定的となった。この点が気になる方もいるだろうな。

シンエンペラーの鞍上履歴
新馬戦(1着) 横山武史
京都2歳S(1着) モレイラ
ホープフルS(2着) ムルザバエフ
弥生賞(2着) 川田将雅
皐月賞(?着) 坂井瑠星

となると、川田は昨年の朝日杯FSを勝ったジャンタルマンタルの方を優先したと見て取れるし、「シンエンペラーは味見しただけかよ!」なんて意見も界隈では出ている。まあ実際、本番でライバルになり得る馬の感触をレースで確かめられたのは大きいだろうね。

それでも、川田が乗ってくれた
意味は今後に生きてくる

というわけで、結果的に弥生賞のみのスポット騎乗に終わったワケだが、『じゃあ、シンエンペラー陣営に収穫は無かったのか?』というと、そんなことは全く無い

そもそもの話、天下の川田将雅に騎乗依頼をするということに、どういう意味があるかを改めて考えてみよう。

もちろん、“勝負師”としての期待もある。それこそジャンタルマンタルがデイリー杯2歳Sまで鮫島克駿とコンビを組んで無敗だったのに、大一番の朝日杯FSで川田にチェンジしたのは、是が非でも勝ちたいからだったのは間違いない。カツマには気の毒な話だけども。

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テン乗りで勝つんだから
川田も見事だよね(朝日杯FS)

けれども、川田が乗ってくれることの大きなメリットは、彼の腕前だけじゃない。その経験値の高さにある。

良い馬に乗り続けてきた人間だけが分かる“感覚”こそ大事で、『川田が乗ってくれることで、この馬の現状の課題、将来性を測ってくれる』というのは、走らせる側としてはメチャクチャ大きいんだよ。

それが最も光った例として、今でも鮮明に覚えてるんだけど、シンエンペラーと同じ矢作厩舎の管理馬でラヴズオンリーユーっていただろう?

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リアルスティールの全妹という血統で前評判から凄かった馬で、3歳時に無敗でオークスを制するも、4歳時は全く勝てなかった。暮れの有馬記念で10着と敗れた後には“限界説・早熟説”も出たんだよな。

ところが、5歳を迎えた初戦、京都記念で川田を背に久々の勝利を味わうと、その年は香港でGI2勝、アメリカでブリーダーズCフィリ―&メアターフを勝つ大快挙まで成し遂げた。

それで、強調しておきたいのが、京都記念の前に川田が調教に乗った時のことなんだよ。この時はレース直前含めて3週連続で追い切りに騎乗して、彼は内々でこんなことを言っていたんだ。表向きの話とはボリュームが違い過ぎるのもそうだが、とにかく中身が凄いのよ。

1週前追い切り後

僕は悪いものは悪い、いいものはいいと正直に言うタイプですが、結論から言うと1週間ですごく良くなっていました。バランスが悪かった先週はキャンターに下ろした瞬間から右口に触れませんでしたが、今日は乗り替わった瞬間から真っすぐハミを取ってきたので右口に触ることができました。

トライアビットにした効果もありますが、課題に向き合ってくれたスタッフと応えてくれた馬の能力の高さが大きいと思います。

(あまりに長いので中略)

内に入れて直線でもまだ我慢させて、馬が真っすぐになってから軽く脚を伸ばしましたが、その程度でも併せた馬を楽にかわしていました。これが競馬につながれば最後の直線のストライドが変わり、間違いなくいい内容になると思います。

最終追い切り後

3週連続で追い切りに乗せてもらいましたが、先々週から先週にかけては3歩進み、今週は2歩下がったという感じでした。ずっと右肩上がりではなく、上下動しながら少しずつ良くなるんだと思います。

今日は右口を触ると嫌がり、バランスも良くなく、バランスの悪いまま前へ進んで行こうとしていました先週の追い切りの心肺データを見せてもらい、中身は出来上がっていたので、前半は悪いバランスの状態から先週の位置にキャンターをしながら戻せるかを試みました。

対応しかけましたが先週の直線のようなバランスに戻ることはなかったので、時計は気にせずバランスの修正と前進気勢の位置を前へ促すような調整をしました。

厩舎スタッフには先週から悪くなった点を説明し、肉体的負荷は全くかかってないので明日も乗り運動をしてほしいと伝えました。レースではいかに気持ち良く最後の直線に向けるかだと思います。

これぞ“超一流”だ。


専門用語が分からないという方もいるかもしれないが、本題はそこじゃないので今回は気にしなくてイイ。大事なのは『ここまで細かいジャッジをして、馬を造る厩舎に的確なフィードバックをしている』ということだ。

レースに乗って勝ち星を多く挙げているジョッキーは他にも少なからず存在するが、川田がトップ中のトップの地位にいる理由が、このやりとりに詰まっていると言えるだろう。一度はしぼみかけたラヴズオンリーユー復活の背景に、川田の存在はあまりにも大きすぎた。

今回の弥生賞を経て、川田サイドがシンエンペラーに対してどういうジャッジを下したのか、その全容はなかなか表沙汰にならないだろうけど、個人的にはかなり収穫の大きいレースになったと思っている。気の早い話だが皐月賞が大いに楽しみになったな。



……という話をしてて、やっぱり思うのが『コレ、現役後半~終盤のユーイチ先生(福永祐一)にソックリ』ってところなんだよな~。本当に良いバトンの受け継ぎをしているよ。

いよいよ開業ということで、ユーイチ先生本人は「もうちょい静かにしておいてくれよ~」ってのが本音だろうけど、どういう厩舎を作り上げてくれるのか、そしてどう馬を造っていくのか、コチラも本当に楽しみだ。初陣予定になっていたレオノーレ(3/9阪神11R)がユタカさん(武豊)騎乗で、しかも4分の1の抽選を通るのは流石に“持ってる”としか言いようがない(笑)


いや~、そう考えるとココから先の春競馬、今年は例年以上に馬券も面白い場面ばっかりじゃないか。しっかりと良い結果をコンスタントにお届けできるよう、入念に準備します。ぜひ期待してくれよ!

加藤

関西ジョッキーは「だいたい友達」
幼少期に競馬場で武豊を生で見てジョッキーを志し「圧倒的に勝ちまくるユタカとアンパンマンが幼少期のヒーローだった」(本人談)。残念ながら競馬学校入学の規定に合わず夢を断念するも、同じ世界で働きたい一心で業界に飛び込んだ。「最後に馬券を託すのは騎手。騎手なくして馬券は買えない」が座右の銘で、関西ジョッキーはだいたい友達を公言し、騎手エージェント事情にも深く精通している。

騎手を志しただけあって騎乗技術にはとてもうるさく、ほとんどの騎手のクセを手の内に収めている。横山武史、坂井瑠星など、サイト内でブレイクを予告した若手騎手が軒並み大活躍中。

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