個性派記者の本音トーク 加藤

【やっちまったなぁ!】北村友一騎手、藤原英昭厩舎の悲哀【油断騎乗】

個性派記者の本音トーク 加藤
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騎手情報担当の加藤です。すでにニュースになっているのでご存知の方も多いとは思うが、先週はジョッキー界隈で『大ヤラカシ』があった。

そう、“キタトモ”こと北村友一の騎乗停止案件である。今日はその問題を掘り下げてみよう。

問題のレースは3/10(日)中京5R、騎乗したのはアスクカムオンモア(藤原英昭厩舎)だった。

このレース、アスクカムオンモアは道中2番手を追走から、直線半ば~残り200m付近で逃げ馬を交わして先頭へ。このまま楽勝かと思われた。

ところが、そこで勝利を確信したのか、キタトモはそこからほぼ追う動作をしなかったんだよな。その結果、ゴール寸前で猛追してきたオールセインツという馬に差されてしまい、1/2馬身差の2着に終わってしまった。

ゴールした瞬間、オレは真っ先に「これは油断騎乗を取られるだろう」と思ったさ。

そして、案の定キタトモには制裁が下された。公式発表はこうだ。

JRAの公式発表より引用

11番アスクカムオンモアの騎手北村友一は、最後の直線コースで9番を交わした後、追う動作を緩め、脚勢よく追い込んできた2番(オールセインツ)に交わされ2着(1着とは1/2馬身差)となりました。

この騎乗ぶりは、明確に着順に影響があったとは認められないものの、騎手としての注意義務を怠ったものであることから、同騎手を2024年3月23日(土)から2024年3月24日(日)まで2日間の騎乗停止としました。

「いや~、これで2日間で済むのか」というのが正直な感想だった。

直近で言えば、横山武史がエフフォーリアの弟・ヴァンガーズハートでヤラカシた事案が思い出される。それこそエフフォーリアでの有馬記念が控えた前日の未勝利戦で、勝利を確信してゴール前の2~3完歩で手綱を緩めた結果、ハナ差で差し切られたヤツだ。この時も騎乗停止は2日間だった。

その時に比べると、今回は緩めるタイミングは早いし、何よりターフビジョンで後続との差が確認できる状況にもかかわらず、完全に油断していたからなあ。個人的にはもっと厳しい制裁になると思ったんだが。

まあ、実際のところ最後まで真面目に追っていれば“100%勝てていた”とまで言い切れないのも分からないでもないので、この辺りの落としどころになったんだろう。ただ、ハッキリ言って心証はめちゃくちゃ悪い。


1日36レース分の映像を振り返ってみてみると、大半のレースでミスをしているジョッキーは存在すると言っても過言ではない。そのミスの大小は様々だし、それが馬券に直結してコッチとしては痛いケースも少なからずある。

しかし、今回のキタトモに関しては単なる気の緩みだ。判断の裏目とか、技量が足りていないとか、そういう部分じゃない。だからこそ大問題なんだよな。

キタトモとて、ここまでの騎手キャリアは決して順調とは言えなかった。そんな中で、徐々に結果を出してノーザンファームを中心とした大牧場系の馬主にも認められるようになって、クロノジェネシスというパートナーにも出会って、脂が乗ってきた……という矢先に落馬で大ケガを負った苦労人である。そこはオレも認めている。それだけに今回のヤラカシは“喝”を通り越して“大喝”である。


……という個人的な感情はさておき、この油断騎乗事案、結構尾を引く気がしてならないんだよな。その理由を詳しく解説すると共に、その周辺事情を掘り下げておきたい。

①主戦クラスの立ち位置にいる
藤原英厩舎の管理馬だった

今回、2着になってしまったアスクカムオンモアを管理しているのは栗東・藤原英昭厩舎だ。競馬ファンの中では『関西のトップステーブルのひとつ』という扱いをしている人が多いんじゃないかな。

ただし、ココ最近の藤原英厩舎は色々と内情が変わってきているんだ。まずは近年の騎手起用の変化を見てみよう。

■藤原英厩舎の主な起用騎手
(2021年~2022年)
騎手 着別度数/総騎乗数 勝率 複勝率
岩田望来24-23-11-96/15415.6%37.7%
福永祐一22-16-9-59/10620.8%44.3%
藤岡佑介3-5-3-19/3010.0%36.7%
幸英明3-0-0-2/560.0%60.0%
鮫島克駿2-1-0-5/825.0%37.5%
今村聖奈2-0-0-3/540.0%40.0%
武豊1-4-0-2/714.3%71.4%
西村淳也1-2-2-20/254.0%20.0%
松田大作1-2-2-13/185.6%27.8%
藤田菜七子1-2-2-5/1010.0%50.0%
■藤原英厩舎の主な起用騎手
(2023年~先週終了時点)
騎手 着別度数/総騎乗数 勝率 複勝率
西塚洸二5-7-4-42/588.6%27.6%
北村友一5-4-4-10/2321.7%56.5%
川田将雅3-4-1-8/1618.8%50.0%
西村淳也3-2-0-10/1520.0%33.3%
岩田望来3-1-4-21/2910.3%27.6%
松山弘平3-0-6-15/2412.5%37.5%
福永祐一3-0-2-6/1127.3%45.5%
戸崎圭太1-2-2-13/185.6%27.8%
団野大成1-1-1-7/1010.0%30.0%
ルメール1-1-0-4/616.7%33.3%

この表、後のテーマに関わってくるので覚えておいてほしい。

2021~2022年の藤原英厩舎は騎手起用の多くが、弟子である岩田望来と、現役晩年の福永祐一という二枚看板だった。

しかし、2023年2月でユーイチ(福永)が騎手を引退、岩田望は同年5月にフリーに転身して、その後は一度も藤原英厩舎の馬に乗っていない。

それ以降、厩舎サイドの騎手起用がガラリと変わった。現状、数多く乗っているのが実質栗東所属みたいな格好になった若手の西塚洸二と、どの厩舎でも満遍なく乗る松山弘平、そして今回の北村友一である。実際、キタトモ×藤原英厩舎の勝率・複勝率は結構良かったりもするんだ。

キタトモとて、大ケガからの復帰後はなかなか騎乗馬が集まっていない中、重宝してくれている大事な厩舎。そんな中で“やっちまった”んよな。

②高額馬を多数買っている馬主と
社台ファームの半持ち馬でのヤラカシ

また、オーナーが“アスク”の冠名でお馴染みの【廣崎利洋HD】というのも痛い。

いやどんな相手でも基本的には大問題なんだけど、廣崎オーナーはここ数年で一層馬主業に力を入れていて、セレクトセールでは高額馬を多数落札しているし、自家生産馬も増やしている。そういうオーナーの信頼を一発で失ったとしたら、今後の騎手人生に大きく影響しかねない。

加えて、これはあまり知られていないけど、廣崎オーナーの馬で『アスク○○○○モア』という名前のやつ、頻繁にいるだろう? 今回のアスクカムオンモアもそうだし、菊花賞を勝ったアスクビクターモアもそうだな。

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ドウデュース世代の菊花賞馬
つくづく早世が惜しまれる

これ、スポーツ紙や専門紙の馬柱には全く書かれないけど、こういう名前にしている馬は、実は“生産した社台ファームとの半持ち”が多いんだよな。つまり今回のヤラカシは、半持ち相手の社台ファームの怒りをも買うハメになっている。今回の油断騎乗によるダメージは果てしなく大きいだろうね。

そして、当然ながら馬券を買っていたファンや、当事者ではない競馬関係者から見ても、大きく信頼を損ねる結果となった。流石に今回の結果を踏まえて、二度とこういうヘマはしないとは思うが……。

③そもそも、藤原英厩舎が
最近勝てていない問題

そして今回、藤原英厩舎にとっても激痛の結果なんだよな。

というのも、実はココ最近の藤原英厩舎は“取りこぼしが多い”んだよね。


3年前には日本ダービーをシャフリヤールで制して、その時にCHECKMATEは大変お世話になった。今でも語り継ぎたいダービー的中のひとつだ。

日本ダービー(GI)
2021

◎シャフリヤール(4番人気)
▲エフフォーリア
穴ステラヴェローチェ(9番人気)

馬連2点目

1010円

3連複

8800円

3連単

5万8980円

その後もコンスタントに勝ち星は挙げているし、昨年は成績を落としたとはいえ33勝(リーディング15位)を挙げている。

そんな厩舎に対して“落ち目”って言葉を使うのは大変失礼かもしれないけど、少なくともリーディングTOP10の常連だった頃に比べると、厩舎力が少々下がってきている感があるんだよな。

今年は先週終了時点で4勝。まあこの数字自体はこれから伸ばしてくる可能性は当然あるものの、2着10回・3着13回と、とにかく勝ち切れていない現状。ただ単に一過性の数字と見る人も多いかもしれないが、内情を聞くとそうも言えないところもあって……。


例えば、さっきも言ったように“厩舎のエース格”だったユーイチが騎手を引退して、調教師に転身した件。その腕にレースで頼れなくなったことだけではなく、熱心に調教を付けて的確なフィードバックを返してくれる人間が減ったのはシンプルに痛手だ。

その直後に、弟子の岩田望を放出する形でフリーにさせた。まあ、このジャッジ自体はその時は正しかったと思うんだけど、今になるとあれだけ乗れる若手が厩舎所属じゃなくなったのはデカいよな。

さらに、この春になって長年この厩舎を支えていたスタッフが別厩舎に移籍という話もあるんだよ。

ココだけの話なんだけど「正直、黄金期の藤原英厩舎とは看板は同じでも中身が違う」とか「最近の藤原英厩舎は馬の仕上げが前より信用できない」という声が色々と漏れ聞こえてきている。

騎手や調教師のデビュー・引退と違って、厩舎スタッフの移籍は一般的にもほとんど話題にならないだろうけど、実はこういう部分で厩舎力が上がったり、下がったりすることはよくあるんだ。先週の記事で堀江記者が採り上げていた上村厩舎はまさにその典型例だな。

藤原英厩舎の開業が2001年、今年で開業24年目と栗東の中でも大ベテランの域に達してきたが、センセイはまだ58歳と若く、定年までまだまだ10年以上もある。ここで終わるような御仁では無いとオレは思っているし、何とか復調してもらいたいんだけどな。


……という感じで、今回は油断騎乗の当事者たちの周辺現状を改めて整理してみた。キタトモに関しては今週末からの騎乗内容で巻き返す他は無いし、藤原英厩舎については再浮上のキッカケが欲しいところだろう。馬券にも関わってくるところなので、騎手・厩舎両面をしっかりと追いかけていくつもりだ。

加藤

関西ジョッキーは「だいたい友達」
幼少期に競馬場で武豊を生で見てジョッキーを志し「圧倒的に勝ちまくるユタカとアンパンマンが幼少期のヒーローだった」(本人談)。残念ながら競馬学校入学の規定に合わず夢を断念するも、同じ世界で働きたい一心で業界に飛び込んだ。「最後に馬券を託すのは騎手。騎手なくして馬券は買えない」が座右の銘で、関西ジョッキーはだいたい友達を公言し、騎手エージェント事情にも深く精通している。

騎手を志しただけあって騎乗技術にはとてもうるさく、ほとんどの騎手のクセを手の内に収めている。横山武史、坂井瑠星など、サイト内でブレイクを予告した若手騎手が軒並み大活躍中。

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