
どうも、関西騎手だけじゃなくて外国人騎手も大体トモダチ、加藤です。
今日は超真面目な騎手ネタです。ズバリ、ジョアン・モレイラに関する話だ!

2024年ここまでの成績
(リーディング19位)
勝 率:31.7%
連対率:51.7%
複勝率:56.7%
ご覧の通り、強烈な数字を叩き出している。この勝率を上回っているリーディング上位騎手は川田将雅(勝率33.9%)のみ。もちろん、良い馬が回ってきているのは言うまでもないが、それでもこの結果は見事だよな。
そして、重賞だけの成績に絞ると(3-1-1-2)となる。来日直後から阪神牝馬S(マスクトディーヴァ)、桜花賞(ステレンボッシュ)、アーリントンC(ディスペランツァ)と騎乗機会3連勝を果たしたのは記憶に新しいところだ。
今回の短期免許期間は桜花賞週~安田記念週(4/6~6/2)の2ヶ月間となっている。つまり今週を入れて残り4週間だ。残り期間でどういった結果を残すのかは非常に興味深い。
ところが……そんな大活躍中のモレイラに、実は大きなピンチが忍び寄っていることはお気づきだろうか。
そのピンチというのが、ズバリ『GI勝利数』と『制裁点』だ。この2つの要素次第で、実は来年以降の来日チャンスを失う可能性がある。早速、それぞれを解説していこう。
ピンチ①:残り期間でGIを勝たないと
来年の短期免許が取得できない!?
この件については、実は過去にすでに前もって指摘している。2月にバウルジャン・ムルザバエフが来日した時の記事も参照してほしい。
結局、ムルちゃんはこの春のうちに規定を満たせなかったなぁ……。今年は残り1ヶ月分余っているとはいえ、この先どうするのやら。
それはさておき。当時から言っていたように、実はモレイラにとって今回の短期免許取得は“要件をギリギリ満たしている”という状況だった。改めて、短期免許取得に必要な条件を引用しておこう。
②過去2年+当該年に『定められた海外競走(GI)』を2勝以上
③過去2年+当該年に『JRAのGI』を2勝以上
※リーディング上位の条件は国ごとに異なっている(主要国を抜粋)

※主要国だけ採り上げたこの表には書いていないけど、4月下旬から来日しているタイグ・オシェアは恐らく『自国(UAE)のリーディング1位実績』でOKになっているものと思われる。
そして、このルールとモレイラの現状を照らし合わせていくと、下記のようになる。
①免許取得国のリーディングで上位に入る(直近2年が対象)
⇒今年はギリギリ対象だった2022年の香港リーディング2位実績が来年は適用外となるため、この要件を満たすのはほぼ不可能(※自国ブラジルでのリーディング獲得は現状厳しい立場)
②過去2年+当該年に『定められた海外競走(GI)』を2勝以上
⇒現状は対象レース未勝利。今年中に2勝以上は流石に難しいだろう。可能性があるとすれば“日本馬の海外GI遠征の際に騎乗して勝ちまくる”とか?
③過去2年+当該年に『JRAのGI』を2勝以上
⇒桜花賞を勝ったことで“今年中にあと1勝”すればOK!
ということで、来年以降の短期免許取得のために、最低でもあと1つはGIを勝たなければならない立場なんだ。そして、残されているチャンスは下記の通り。
・ヴィクトリアマイル
⇒マスクトディーヴァに騎乗予定。前走・阪神牝馬S(1着)から継続騎乗
・オークス
⇒自国ブラジルで騎乗するため参戦できず。ステレンボッシュは戸崎圭太に乗り替わり。
・日本ダービー
⇒皐月賞(2着)でコンビを組んだコスモキュランダはミルコ・デムーロに戻ることが内定済み。ということで、恐らくダノンエアズロック(プリンシパルS1着)もしくはゴンバデカーブース(NHKマイルC4着)……要するに堀厩舎の馬に騎乗となるだろう。
・安田記念
⇒ソウルラッシュに騎乗予定。昨年秋のマイルCSで騎乗した時には僅差2着だった。この時勝てていればすでに要件を満たせていたんだが……。
このように、本来なら大チャンスかと思われたオークスのステレンボッシュに乗れないという痛恨の事態になった。どうやら自国で専属契約を結んでいる馬主さん絡みの騎乗予定馬が居るらしいんだが、本音では「帰りたくねえ!」だろうな……。
日本ダービーについては“堀厩舎優先”という立場になっているのが吉と出るか、凶と出るか。本来、皐月賞2着馬に継続して乗らないなんてケースの方が珍しいけどな。
安田記念のソウルラッシュも優勝圏内の一頭ではあるが、マイル路線には他にもタレントが色々といる上に、今年は香港の強豪が来日するという話もあって見通しが立てづらい。
ということで、今後を考えると今週のヴィクトリアマイルで中央GI2勝の規定を満たしておきたいところ。その意味でも、マスクトディーヴァへの騎乗は相当力が入っているだろうし、今年の出走メンバーを考えるとチャンスは大きいと考えているはずだ。
……ここでふと、疑問に思った方もいるだろう。「仮に春がダメでも、秋にもう1回来れば良いんじゃないの? まだ1ヶ月分余ってるじゃん」とね。
普通の状況ならその通り。しかし、ここでもうひとつのピンチである『制裁点』の問題が付きまとってくるんだ。
ピンチ②:制裁点の累積ダメージが怖い!?
これ以上制裁を受けると……
競馬ファンの皆さんは、レース中の“制裁”に関するルールを詳しく把握しているだろうか? これ、恐らくメディアの人間もあまり分かっていないと思う。
分かりやすいところで言えば『騎乗停止』は公に発表されるが、レース中の斜行やムチ連打、その他ルール違反による制裁・過怠金については、JRAのレース結果ページには記載されるものの、スポーツ紙や専門紙では分からない要素だ。
実際は裏で細かくルールが定められていて、例えば『戒告』だと制裁点は1点。『過怠金3万円』なら3点という風になっている。自動車免許と一緒で累積方式だ。
この点数によってフェアプレー賞の対象になったり、逆に制裁を受けすぎると再教育という名目で講習を受けさせられることもある。
というところで、短期免許を取得した外国人騎手に適用される“制裁点ルール”を紹介しよう。
・前年の制裁点が15点を超えて30点以下であった場合、および1回の騎乗停止を受けた場合は、次の年に取得できる短期免許は『最大2ヶ月まで』となる。
・短期免許取得中に騎乗停止2回、もしくは制裁点30点を超過した場合は、免許終了日の翌日から起算して1年間は交付されない。また次年度の取得は最大2ヶ月までとなる。
※昨年はダミアン・レーンがこのルールに抵触。その関係で昨年の免許期限終了日から1年間(昨年6/14~今年6/13)までは日本の短期免許が取得できない。裏を返すとこの期限が終われば短期免許取得が可能となるので、モレイラと入れ替わりで来るということは当然考えられる。
要するに、制裁をもらい過ぎると翌年の短期免許取得に影響しますよ、ということである。
そんでもって、実はモレイラ、来日の度に細かい制裁を受けている場面が結構あって、すでに今年もピンチに追い込まれているんだよ。
元々、ギリギリの攻める騎乗をする人間ではあって、それこそステレンボッシュで勝った桜花賞でも勝負処でアスコリピチェーノを外に追いやる厳しい競馬を見せていたよな。
また、先週のNHKマイルC(ゴンバデカーブースに騎乗)では、直線で外に斜行してディスペランツァの進路をカットする場面があり、この時は過怠金3万円の処分を受けている。内でゴチャついたアスコリピチェーノ絡みの方は結構話題になっていたが、コッチについては気づいていない方も多いかもしれないな。
この斜行も含め、今回の短期免許期間で累積した制裁点は12点。第一のボーダーである15点が目の前に迫っているんだ。
つまり、残りの騎乗期間で制裁点を4点以上加算してしまうと、来年の短期免許期間が最大3ヶ月⇒2ヶ月に減らされてしまう。かなりギリギリの立場に追い込まれているんだよ。
そしてもう一丁、モレイラは昨年の累積制裁点が19点なので、今年の短期免許取得も最大で2ヶ月まで……ということで、恐らく今年はもう短期免許の取得が叶わない。
つまり、残されたGI勝利チャンスは基本的に上記の3鞍(ヴィクトリアマイル・日本ダービー・安田記念)しかないワケだ。
※一応例外はあって、例えば外国馬でJRAのGIに参戦するケースでは騎乗ができる。例えば昨年のフェブラリーSにシャールズスパイトでスポット参戦したようにね。
他にもワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)に招待されたら来日はできるが、そのタイミングでGIは無いからな。
さあ、これでモレイラ側としては考えなければならないことが山ほどある。「GIは勝たなければならないが、かといって制裁点を余計にもらうわけにはいかない」と。これによって何が起きるかというと、レース中に“守り”に入ってしまうタイミングが増えかねないんだ。
ということで、モレイラにとっての残り1ヶ月間(実質的には3週間)は、GIではほぼ間違いなく攻めた騎乗をしてくるはず。
その反面、平場については慎重にジャッジする必要もより一層出てくるだろう。なるべく安全運転で回ってくる可能性もあるし、そもそも気性面に難のある馬の依頼は事前に断ってくるケースもあるだろうな。
ここまで込み入った話はなかなか皆さんも目にすることは無いと思うが、モレイラ騎乗馬の取捨選択の際にはぜひとも、今回紹介した内容を頭に入れておいていただきたい。そして何より、今週以降のモレイラの騎乗ぶりは必見だ。

加藤
関西ジョッキーは「だいたい友達」
幼少期に競馬場で武豊を生で見てジョッキーを志し「圧倒的に勝ちまくるユタカとアンパンマンが幼少期のヒーローだった」(本人談)。残念ながら競馬学校入学の規定に合わず夢を断念するも、同じ世界で働きたい一心で業界に飛び込んだ。「最後に馬券を託すのは騎手。騎手なくして馬券は買えない」が座右の銘で、関西ジョッキーはだいたい友達を公言し、騎手エージェント事情にも深く精通している。
騎手を志しただけあって騎乗技術にはとてもうるさく、ほとんどの騎手のクセを手の内に収めている。横山武史、坂井瑠星など、サイト内でブレイクを予告した若手騎手が軒並み大活躍中。