個性派記者の本音トーク 加藤

【ライトバック競走除外】坂井瑠星が言った“ハミが外れた”ってどういうこと?

個性派記者の本音トーク 加藤
#

加藤でございます。

騎手情報を担当する視点から、先週のとある事故を紐解いてみよう。

先週木曜日の記事で、新潟記念に出走するライトバックのハンデ設定に関する話を採り上げた。

▼先週の記事はコチラから

ところが、皆様もご存知の通り、ライトバックは返し馬でテンションが上がってしまい、コントロールを失って放馬。

鞍上の坂井瑠星は放馬寸前で何とか自分の意志で馬から跳び降りたことでケガに至らず済んだが、暴走したライトバックは外ラチを破壊してコースの外へ出てしまい、そのまま地下馬道まで走り去るというとんでもない事態になってしまった。

もちろん競走除外になり、ライトバック絡みの馬券は返還になったのだが、秋華賞の出走はだいぶ厳しくなっただろうな……。そもそも新潟記念で賞金を加算したい立場でもあったし、まずはしっかりと傷を癒してもらいたいところだ。

ライトバック

さて、その放馬について、開催が終わった後に瑠星の言葉で下記のような振り返りがあった。馬券を買ったファンに向けた説明でもあったな。

坂井瑠星の発言を引用

ライトバックは返し馬の後にゲートに寄ろうとしなかったので、係の人に引っ張ってもらったのですが、その後ハミが外れてしまいました。

ハミがないまま最後の直線まで走ってしまい、これ以上走るのは危険と感じて飛び降りる判断をしました。

幸いライトバックに酷い怪我はなく、僕も大丈夫です。

今後このようなことがないようにし、また来週以降頑張りたいと思います。

引用ここまで。ライトバックの気性面の課題が如実に出たことと、非常に危険な放馬だったことが窺えるな。

とはいえ、競馬についてある程度詳しくないと「ハミが外れたって何だ?」「何がどうなってたんだ?」と思ってしまうだろう。それは当然だ。

ということで、あくまでオレの見地と経験、今までジョッキーサイドから聞いてきた話を踏まえつつ、今回の放馬の件を掘り下げてみようと思う。

そもそも、競馬で使われる
『ハミ』って何ぞや?

口にくわえている金属製の器具が『ハミ』
(この馬は他にも馬具がかなり着いている)

我々も情報馬に関するネタやレース分析をお送りする時に、特に説明もなく『ハミ』に関する事象をご紹介することが多い。ただ、改めて基礎の基礎から紹介していこう。

そもそも『ハミ』とは何か。JRAの公式ホームページでは下記のように説明されている。

馬銜(はみ)とは、馬の口に噛ませる棒状の金具である。

馬の口には前に上下12本の切歯があり、切歯のうしろはかなり広い歯のない部分(歯槽間縁)があり、その奥に臼歯(奥歯)が並んでいて、ちょうどこの歯のない部分に馬銜をかける。

騎手の手綱さばきはこぶしから手綱を通じて馬銜に伝えられ、馬に合図を送ることができる。

なるほど、分からん!


と思った方、大丈夫だ。さすがにコレで分かれというのは簡単じゃない。

そもそも、漢字だと【馬銜】と書くことを初めて知った方も多いことだろう。っていうか、オレも“漢字で書け”と言われてもまず書けないな。明日には忘れてそうだ。

ということで、当コラムははもちろん、CHECKMATE内で表現する時は、基本的にカタカナで【ハミ】と書かせてもらおう。


そんでもって“ハミって何ぞや?”ってのをオレ流にまとめると……。

・馬の口にくわえさせる金属製の棒

・馬の口の左右には歯が生えていない箇所があり、そこに棒状の金属を通して着用している。

・この棒が手綱に繋がっていて、騎手は手綱を操作してハミの動きで馬に指示を与えている

・馬がハミを正しくくわえていないと指示が伝わらない

・馬とのコミュニケーションにとって最も重要な器具である

という点をまずは理解していただけたらと思います。


ここで、競馬にある程度詳しくなってきた方は、ひとつ疑問を持つかもしれない。

“ハミが抜ける”って関係者が表現するものと、今回の“ハミが外れた”は、果たしてどう違うのか。

そもそも、ハミに関するニュアンスは、普段から馬に乗っていないとマジで分からないと思う。他にも“ハミを取る”とか“ハミを噛む”なんて言ったりするもんな。

それらの表現を、今までオレが聞いてきた話から簡単にまとめると、

“ハミを取る(かける)”⇒馬がハミをくわえ込んで、鞍上の指示が伝わる状態になる(集中して)

“ハミを噛む”⇒折り合いを欠いて手綱が引っ張られている状態(※要するに“引っ掛かる”ってヤツ)

“ハミが抜ける”⇒馬が正常にハミを取っておらず、騎手の指示に対して反応がない

“ハミを抜く”⇒ハミをくわえ込まないように意図して操作する

こんなところになるのかな。いや~、言葉が似ていてもニュアンスは全然違ったりするよね。

そもそも“抜く”とか“抜ける”という言い方ひとつを取ってみても、馬がくわえているハミが物理的に抜けるのではなく、乗り役の感覚的なモノだしな。


余談だけど、この“ハミを抜く”という概念は日本特有に近いものらしく、特にヨーロッパの競馬では考えられないことらしい。『ハミは絶対にかけて乗るべきもの。ハミを抜いてばかりいると、いざハミをかけた時にコントロールできない馬に育ってしまう』という考えだ。

ただ、すべての馬にしっかりとハミをかけて乗っていると、鞍上はそれだけしっかりとコントロールするための力を求められるから、当然ながら疲労が溜まるし技量が必要になる。この塩梅がなかなか難しいようだ。

そして、今回改めて勉強して驚いたのは、某記事にてこう解説されていたことだな。


『人間と馬の長い歴史にあって、人間が馬を思いのままに制御しようと試みた中で、ハミは最大の発明であるといわれる』

いや~、ハミってこんなに凄い道具だったんだな。現代競馬において、ハミがないと馬が制御できないのも当然ってことだ。

今回は『ハミが抜けた』ではなく
物理的に『ハミが外れた』

さて、いよいよライトバックの件だ。

ここまで紹介してきたハミに関する操作と決定的に異なるのは、瑠星が「ハミが外れて、ハミがないまま最後の直線まで走ってしまった」と表現している部分だ。

つまり、ハミが外れたってのは物理的な事象であり、騎手が馬をコントロールする術を失ってしまったに等しいということだ。ロデオみたいなものだよね。

そんな状況で、馬に、ましてやサラブレッドに乗り続けていることなんて到底不可能性あり、あのまま瑠星が跳び降りずに乗り続けようとしていたら、ライトバックもろともラチに激突していただろうな……。


最終的に、瑠星は無事で済み、ライトバックについては今のところ外傷は負ったものの、大きな故障には繋がっていないと聞いている。精神面の問題はまだ分からないが、あれだけの暴走で大事故に繋がらなかったのは、不幸中の幸いと言っても良いんじゃないかなと思う。

こういう出来事があるのも競馬の側面のひとつだが、一部では「瑠星がライトバックをコントロールすることを放棄した」というような意見もあったという。言っちゃ悪いが、それはただ単に理解力が足りていないとオレは言わざるを得ない。

ただ、特にビギナーの方は、分からないことがあっても当然。理解力が足りていなのは必ずしも悪ではなく、知識を得る伸びしろがあるということでもある。オレも今回の事象を改めて整理して、ハミに関する細かい知識を改めて得られた部分があるからな。


というわけで、今回は解説記事を書いてみましたが、いかがだったでしょうか。会員様の中に「コレ知りたい!」みたいなものがあって、オレが書けそうなテーマが届いたら記事にしていきたいと思います。

加藤

関西ジョッキーは「だいたい友達」
幼少期に競馬場で武豊を生で見てジョッキーを志し「圧倒的に勝ちまくるユタカとアンパンマンが幼少期のヒーローだった」(本人談)。残念ながら競馬学校入学の規定に合わず夢を断念するも、同じ世界で働きたい一心で業界に飛び込んだ。「最後に馬券を託すのは騎手。騎手なくして馬券は買えない」が座右の銘で、関西ジョッキーはだいたい友達を公言し、騎手エージェント事情にも深く精通している。

騎手を志しただけあって騎乗技術にはとてもうるさく、ほとんどの騎手のクセを手の内に収めている。横山武史、坂井瑠星など、サイト内でブレイクを予告した若手騎手が軒並み大活躍中。

#加藤の記事を読む