【やれんのか!?51キロ】11年ぶりの減量、松山弘平の本気度がポイント【小倉牝馬S/オーロラエックス】


小倉牝馬S(G3)ってなんだよ……という方、私も同じです。騎手情報担当の加藤です。
なお、アメリカJCC(G2)に関する記事はまた改めて更新予定だ。そちらもお見逃しなく!
今年は重賞レースの移動や新設(といっても昨年まであった条件の名称変更が多い)が目立つ中で、早速“謎の重賞”のひとつ……小倉牝馬S(G3)が今週末にやってきた。
といっても、牝馬限定戦の芝2000mかつハンデ戦だから、要するに昨年までは愛知杯(G3)として行われていたレースを、今後は冬の小倉で固定して開催するということだね。
ちなみに、一昨年(アートハウス)・昨年(ミッキーゴージャス)と、愛知杯はどちらも川田将雅の騎乗馬が勝利している。
今年の川田はクイーンズウォークに騎乗予定で、こちらが堂々のトップハンデ55.5キロ(※5歳以上の馬換算で56.5キロ扱い)という設定になった。まあ、当然の斤量ではあるな。

クイーンズウォーク
そんな中で、ハンデ設定も含めて気になる人馬が居る。それが松山弘平とオーロラエックスだ。
オーロラエックスはここまでキャリア4戦3勝、2走前のローズSこそ9着に終わったが、条件戦を着実に突破してきている。すべてのレースで松山が手綱を執ってきた。
その松山が今回も騎乗予定となっており、水曜午後トレセン界隈で出回る出走想定表でも松山の名前が掲載されていたが、ここでポイントとなるのが、実に久々となる“51キロでの騎乗”という部分だ。

松山弘平
1990年3月1日生
身長167.0センチ
体重51.0キロ
(公式情報より)
まずは予備知識
『斤量のルール』を知っておこう
ここで今回のテーマの大前提となる“斤量に関するルール”の話をしておこう。
例えば3歳牝馬が夏競馬で古馬相手に出走する時、ちょっと前までは52キロという斤量が基本だったけど、2023年からは53キロが基本になっている。
そう、まさに2023年の競馬から『騎手の健康と福祉および将来にわたる騎手の優秀な人材確保の観点』という名目で、平地競走の負担重量の引き上げが行われた。
カンタンに言うと、減量に苦しむジョッキーを少しでも減らすため……というルール変更である。人間の性質として、どうしても年を重ねると体重を絞るのが難しくなるし、騎乗に必要な体力・筋力が損なわれる恐れがあるからね。
加えて、ルール改定の前年にあたる2022年には、デビュー2年目の若手騎手・西谷凜(※今は茶木厩舎で調教助手を務めている)が減量に苦しむあまり“騎乗時に着用する保護ベストのクッション材を抜いてレースに参加する”という危険な橋を渡る行為があった。
もちろんこの時に騎乗停止処分を受けているんだが、最終的に本人が「このままじゃ体重管理が最優先になってしまい、レースに集中できない」と考えて助手への転身を選んだ格好だ。
自分の命を守るための保護ベストを改造してまで乗るという行為、もちろん行為自体は本人に非があるんだけど、そもそも西谷凜の親父(西谷誠)も身長が高くて今は障害専門ジョッキーになっているし、家系的に体重調整が辛くなるだろうという見立ては最初からあった。そんな中でも乗せてくれる関係各所への思いが悪い方向に働いてしまったと言えるだろうね。
他にも、競馬学校の時点で体重の規定が守れず、泣く泣く辞めていく人間も少なくない。それこそ、いつぞやのコラムで話題にした元・騎手候補生の朝倉雪月さんが2022年の夏に退学した際には身長170センチあったらしいからね。特に若い子はいつどこで成長期を迎えるのか分からないからなあ。
さすがにこういう事態を競馬界も重く見たのか、この翌年から斤量ルールが改定されたというわけだ。
松山弘平、実に約10年半ぶりに
『51キロ』で騎乗……どうなる!?
ここからが本題だ。小倉牝馬Sに出走予定のオーロラエックスのハンデは51キロと発表された。
立場としては2勝クラスを勝ったばかりでの格上挑戦だし、クイーンズウォークのハンデの時にも少し触れたように、この時期の4歳馬は中距離戦だと5歳以上の馬に比べて基本の斤量が1キロ軽い。そうなると実質52キロの評価だから、まあ妥当っちゃ妥当と言える範囲になる。
ただ、ジョッキーサイドからすれば「別に52キロでも良かったのに」というのが本音もなくはないんじゃないか。その方が減量が楽だからね。

※写真はイメージです
ルールが改定される前の2022年まで、松山は52キロでもバリバリ乗っていた。ただ、現行ルールとなった2023年以降は52キロでの騎乗馬は全くない。立場的に成績で見劣る軽ハンデの馬に乗る機会が減っているというのもあるんだろうが、裏を返せばそこまで体重を絞って乗るほどの馬も居なかったと言えるだろう。
とはいえ「2022年まで52キロでバリバリ乗ってたんなら、51キロでも大丈夫じゃないの? そもそも体重51キロなんでしょ?」と思う方も居るかもしれないが、実際はそう簡単な問題でもない。当たり前の話だが、騎手は全裸で乗るわけじゃないからな。
競馬のルールで、検量の際は『勝負服や鞍、ブーツ、重さ調整用の鉛など』を含めたものが斤量という扱いになっている。ムチとヘルメットは除外されているが、それでも公表体重が51キロの松山の場合、諸々を足して52キロがギリギリというところだろう。
そして、松山が最後に51キロで騎乗したケースは2014年の夏にまで遡る。当時コンビを組んでダート短距離路線で活躍していた3歳牝馬コーリンベリーに重賞・プロキオンSで騎乗するための減量だった。
当時の松山はまだ24歳と若かったから体重を絞るのも苦じゃなかったとは思うが、それから10年以上が経った2025年に、再び51キロで騎乗しなければならない場面が巡ってくるとはね。

オーロラエックス
あ、あと今回の減量で大変なのは“冬場の開催”であるというところだろう。
ジョッキーサイドから聞いたことがあるんだけど、夏場の開催だと発汗やら何やらで、朝から夕方まで騎乗している間に自然と1~2キロ絞れている……なんてことはしょっちゅうあるらしい。だからメインレースで軽い斤量の馬に乗らなきゃいけない場合でも、そこまで事前の減量が必要がないこともあるんだとか。それが冬場になると、全く異なる事情が入ってくると言える。
元々軽い斤量で乗れるジョッキー達も少なからず居るけれど、基本的に減量ってのは過酷なんだよな……。
というところで、このまま無事に運べば約10年半ぶりに51キロで騎乗することになる松山弘平。減量して臨んだ競馬開催が終わった後のメシはさぞかし美味しいだろうから、良い結果に繋がることを願うばかりだ。
余談:斤量調整に失敗した外国人列伝
ちなみに、最悪の場合として“1キロ以内の斤量超過”なら乗り替わりなく騎乗できるという決まりもあるにはある。
近年でも若手騎手がこの状況で騎乗するケースが見られるが、個人的に印象に乗っているのは2014年のジャパンCでエピファネイアにクリストフ・スミヨンが乗って勝った日のことだ。
この日のスミヨンは他のレースで、56キロの騎乗馬に乗る際に体重超過になってしまい、56.5キロで乗ったというケースがあった。
しかもよりにもよって勝ち馬からクビ+ハナ差の3着に終わったもんだから「500グラム差で負けたんじゃねえか?」と一部で話題になったもんだ(苦笑)。この時は確か過怠金7万円だったかなあ。
このルールについては、もちろん1キロよりも超過した場合は強制的に乗り替わりになるという意味でもある。プロとして、ちゃんと自分の体重を調整して騎乗するという姿勢が当然であり、最初から「過怠金を支払うので52キロで乗って良いですか?」とはならないだろう。

昨秋来日時のスミヨン騎手
その節は大変、お世話になりました。
(※人数限定公開)
[11月24日(日)東京10R]
◎ヴァンドーム(関西馬!) ※スミヨン騎乗
○シゲルソロソロ(関西馬!!)
△アッチャゴーラ(関西馬!!!)
馬連1点目:1280円的中
3連複:3140円的中
3連単:1万6580円的中
あと、斤量ルール絡みで“伝説”を残した外国人ジョッキーと言えば、やっぱりピエールシャルル・ブドーだろうな。
フランスでは若くして『オリビエ・ペリエの後継者』と呼ばれるほどの活躍だったが、これまたスミヨンと時を同じくして来日した2014年に減量に苦しみ「55キロで乗れないならブーツを履かずに乗っちゃえ!」と、まさかの靴下のまま騎乗するという荒業を敢行。その馬では12番人気2着とキッチリ持ってきたんだけど、もちろん制裁を科されていたね。
このブドーくん、確か3年ほど前に自国フランスで女性への暴行容疑で起訴され、最終的に免許をはく奪されていた記憶がある。文字通り、黒歴史になっちまっとるがな……。
まあ、基本的には外国の競馬の方が斤量を背負うケースが多いから、外国から参戦した騎手が日本で減量に苦しむケースとか、最初から『○○キロ以下の馬の騎乗依頼は基本的に断る』という条件が付いている場合が多い。
にもかかわらず、頑張って減量して乗るケースというのは、それだけ勝負度合いが高いことも珍しくない。これは覚えておくと外国人騎手絡みの勝負の見極めで役に立つぞ!

加藤
関西ジョッキーは「だいたい友達」
幼少期に競馬場で武豊を生で見てジョッキーを志し「圧倒的に勝ちまくるユタカとアンパンマンが幼少期のヒーローだった」(本人談)。残念ながら競馬学校入学の規定に合わず夢を断念するも、同じ世界で働きたい一心で業界に飛び込んだ。「最後に馬券を託すのは騎手。騎手なくして馬券は買えない」が座右の銘で、関西ジョッキーはだいたい友達を公言し、騎手エージェント事情にも深く精通している。
騎手を志しただけあって騎乗技術にはとてもうるさく、ほとんどの騎手のクセを手の内に収めている。横山武史、坂井瑠星など、サイト内でブレイクを予告した若手騎手が軒並み大活躍中。