皆様、こんにちは。主に関東(美浦)取材を担当する佐山と申します。
栗東に拠点を置き、特に関西情報をメインで扱うCHECKMATEの中では、自分で言うのもなんだが“異色”の立ち位置で、主に関西陣営から見ればライバルにあたる関東陣営の取材班の中心として活動させてもらっている。
この秋GIではレガレイラ(エリザベス女王杯4着)やチェルヴィニア(ジャパンC4着)を間近で見ているからこそ、“危険な人気馬”として不安材料や死角を探り当てることができた。これも関東情報班の仕事のひとつだ。
ただ、その意味でいえば、先週のチャンピオンズCは自分の力が及ばなかったということ。レモンポップにはほとほと“参りました”の気持ちだ。
レース直後に山川記者とLINEでやりとりした中で、お互いの見解が一致したのは、ひとえに『坂井瑠星が馬を信じて、昨年以上に早めのスパートで最後まで粘らせた。それを褒めるしかない』というところ。
ということで、昨年分と今年分の、公式発表されているレースラップを見てみよう。1ハロンごとの数字と全体時計を比較すると面白い部分がある。
【昨年】
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6=1:50.6(良)
※前半1000m通過:60.9秒
【今年】
12.6-11.0-12.4-12.2-12.6-12.4-12.2-12.0-12.7=1:50.1(良)
※前半1000m通過:60.8秒
全体時計に関しては同じ良馬場でも時計が出やすい・出にくいがあるので比較材料にするのは早計だが、見てほしいのは“後半から3ハロン目の時計”だ。
これが昨年は12.6秒のところ、今年は12.2秒。比較してみると分かるが、坂井瑠星がスパートをかける位置が昨年よりも少し早い。今年は4コーナーで仕掛けていき、直線入り口で早々に後ろを引き離す手に出た。
つまり、直線での上がり勝負よりも、先に後続との差を広げに行く形を選んだということ。
そして、これで最後まで粘らせたんだから、これはもう瑠星の腕で勝ち切ったようなモノだ。距離に不安があるのに、昨年よりも仕掛けるタイミングが早いんだから。
JRAが昨年から導入した『ジョッキーカメラ』の映像を見ても、瑠星の渾身の騎乗と、パートナーへの信頼が見て取れる。ここまでやられちゃ、もう脱帽するしかない。
▼レモンポップのジョッキーカメラ映像▼
昨日の敵は今日の友……ではなく“先週の友は今週の敵”とはまさにこのこと。ジャパンCの◎シンエンペラーに続き、ここでも瑠星の積極策と判断力が大いに光った。
もちろん、「ピークを過ぎた、もう下り坂である」という自覚の下で、最後の最後にそれを持たせるだけの仕上げまで間に合わせてきた田中博康厩舎の力も認めざるを得ない。完敗だ。
さて、ここからが本題。
そんなレモンポップ陣営に対して最も悔しい気持ちを持っているのは、同じ関東馬のウィルソンテソーロ陣営だと思う。
こういう結果になっては情けない話になってしまうが、CHECKMATEではレモンポップよりもコチラを上に見ていた。
現状の充実度や、この馬の背景に潜む人間関係などもひっくるめて、今回はいよいよ逆転する可能性は低くないと思っていた。それも含めて、さっきも言ったように完敗である。
ここでは関東情報網という立場から、ウィルソンテソーロ……という以上に、この馬を所有する了徳寺健二オーナー(テソーロ冠でお馴染み)が絡むウラ事情をコッソリ書いてみよう。
ここからはちょっと穿った見方が随所に出てくるように感じられるかもしれないが、これも競馬界の側面として楽しんでいただければ幸いだ。
テソーロ軍団はトラブルメーカー!?
奇しくも前年と同じワン・ツー・スリー決着となったチャンピオンズC。すなわちウィルソンテソーロは昨年同様にレモンポップにわずか及ばなかった。着差は昨年【1馬身1/4差】だったのが今年は【ハナ差】まで詰めたんだけどな。
鞍上の川田将雅に関しては、自分がやれるだけのことはやった上で、昨年よりも差を詰めての負けだから、悔しさの中でも「やりきった」という感情はあるかもしれない。実際、レース後のコメントにはこの言葉がにじみ出ていたと思う。
ただ、特に了徳寺オーナーとしては、レモンポップ陣営って“絶対に負けたくない相手”だったと思うんだよな。特に今回は、相手がこれで最後……引退レースということが分かっていただけに尚更だろう。
この件については事情を知らないと『ただ単なるライバル関係』とか『同じ路線で目標にしてきた馬だから』とか、ピュアな気持ちで考えてしまうかもしれない。
実のところ、この件に関してはちょっと“ダークな側面”というか、あまり表沙汰になっていない事情が孕んでいる。
……ここまで喋って分かった方、あるいは事前に気づいていた方は、事情通の素養がある。
そう、ウィルソンテソーロって、デビュー時は田中博康厩舎に所属していたんだよな。
初勝利の時の写真
当時は田中博康厩舎の管理馬
当初は芝で結果が出なかったが、ダートに転戦してから破竹の4連勝でオープン入り。オープンクラスの初戦(昨年3/19中京11R)は5着に敗れたんだが、その後すぐに今の小手川準厩舎に転厩するという事態になった。
もし読者のアナタが馬主だとして、一度の敗戦でここまで勝たせてくれた厩舎に対して反旗を翻すだろうか?にわかには到底考えられない転厩劇となった。
これについては当時から色々言われていてオーナーサイドの意向と厩舎サイドの考えが合わなかったとか、それ以前から積もり積もった問題があったとか……。
ただ、昔からの話なんだが、了徳寺オーナーって本当にケンカっ早いというか、厩舎間とトラブルを起こすケースがかなり多いと言わざるを得ないんだ。本格的に馬を持ち始めてから10年経ってないくらいなのに。
※あくまでイメージです
例えば、テソーロの馬で一番最初にブレイクした馬といえば、2016年にデビューから4連勝で全日本2歳優駿を制し、翌年にはNHKマイルCで2着に入った二刀流牝馬のリエノテソーロだが、この馬を管理していた武井亮厩舎とは2019年夏に揉めて、当時の管理馬10頭ほどをすべて転厩させるという“事件”があった。
その後も厩舎・騎手ともにNGを出している、あるいは出されている人間は数知れず。横山武史とか2020年初頭からつい最近まで、不自然なまでにほとんど乗っていない時期があった。何故か先月くらいから再びテソーロ馬に乗り始めているが……(苦笑)。
他にも、コンスタントに結果を出しているのに便利屋扱いされている原優介なんかも、傍から見ていると可哀想に思える場面が多々ある。少なくとも、今年のフェブラリーSは乗せてやるべきだっただろうに。
他にも、了徳寺氏絡みのエピソードは沢山ある。
4~5年前だったか、自分のところの牧場を拡大するために人員を募集して、競馬雑誌に求人募集が掲載されている時期があった。某専門紙記者からソッチに転職した例も複数あったな。
ところが、その中の一人は数年ですでにトレセン界隈に戻ってきている(別会社の記者に再転職)という実情もある。これも現場でソリが合わなかったんだろうな……。
まあ、これらの話は全部、ウィルソンテソーロ自身や鞍上には全く関係の話ではあるし、加えて言えば小手川厩舎サイドも特に意識はなかったかもしれない。
ただ、レモンポップの指揮官であるタナパク(田中博康調教師)を相手に、ケンカ別れのような形で管理馬を引き上げているオーナー本人に関しては、事情が異なる一戦だったことは間違いないだろう。今回のハナ差、夢に出てうなされても驚かないレベルだな……(苦笑)。
※あくまでイメージです
“人間の思惑”がレースを
そして馬券を左右する
ということで、今年のチャンピオンズCで勝負態勢にありながら、あと一歩及ばなかったウィルソンテソーロ陣営の視点……いや馬主の視点からレースを振り返ってみた。
「アイツ(レモンポップ)にだけは負けないでくれ……!」なんて、実際に言われていても全く不思議じゃなかったこの状況。結構な泥沼劇のように見えたかもしれないが、こういう視点もあるのが競馬だ。
そして、こういった話、馬券的には決してバカにできるものではない。メチャクチャ大事だ。
何故なら、競馬で走るのは馬だが、走らせるのは間違いなく“人間”だから。
騎手・厩舎(調教師や厩舎スタッフ)・馬主・外厩・育成など、一頭の馬には何人もの“人間”が関わっている。だからこそチームが一丸になる時もあれば、逆にトラブルを引き起こすこともある。けれども、携わる人間やチームに関する話って、なかなか競馬ファンの皆様の元には届かないんだよな。
CHECKMATEでは時に、決して前向きじゃない話も出てくると思う。中には「知らなかった方が純粋に競馬を楽しめていたかもしれない」という時もあるだろう。
けれども、そういう側面も含めて競馬だと思っているし、そういう事情を知れば知るほど、競馬や馬券が楽しくなっていく部分は絶対にあると確信している。
今回のチャンピオンズCは何度も言うように“完敗”に終わり、共に馬券を手にしていただいた皆様には申し訳ない気持ちで一杯だが、今後もこういった舞台裏をより多くの会員様にお伝えしていった上で、勝負処をよりコンスタントに仕留められるよう、取材・分析に励む所存。
皆様も「こういった話が知りたい!」というモノがあれば、ぜひメールでお寄せいただければと思います。すべてのリクエストに応じるのは難しいけれども、可能な限りは我々記者勢がコラムで採り上げさせていただくぞ。
佐山
栗東から美浦へ…ライバル陣営の情報は任せろ
ビッグボス堀江を師と仰ぎ、かつては同じく記者として栗東で活動していたベテラン。栗東を出たことのない根っから地元民だったが、ある時に関東情報の収集のため美浦に派遣されたことをキッカケに、今では『ライバル陣営』にあたる関東圏の勝負情報を一手に引き受けるリーダー的存在となった。
本人曰く『向こうの水が合っていた』とのことだが、実際は“遊び”の環境が揃う関東圏の生活が楽しくて仕方がないらしい。しかし、仕事には一途であり、その“遊び”も含めて関係者からの本音を引き出す技術は一級品である。