
どうも、美浦の佐山です。平日にコラムを書かせてもらうのは久しぶりだな。
すでに一般ニュースで報じられているように、日本にも度々来てくれていたドイツの元騎手フィリップ・ミナリクが亡くなった。現地報道によると“うつ病”を患っていたらしく、自ら命を絶ったという話もあるようだ。
彼は短期免許の度に美浦を拠点にしていたから、自分もよくお世話になった。今日は美浦トレセン界隈でもこの話題で持ちきりだったし、それだけ来日する度に周囲から親しまれていたことがよく分かる。
短期免許で日本にやってくるジョッキーは当然ながら性格も様々で、特にベテランクラスともなると“職人気質”というか、あまり人を寄せ付けないような雰囲気を出す人間も少なくない。個人的にライアン・ムーアとかがそのタイプだと思っている。
ただ、ミナリクはめちゃくちゃフレンドリーな上に、誰に対しても分け隔てなく接する男だった。トレセンにあまりにも馴染みすぎていたと言ってもイイ。
それから、彼は日本文化を心より愛していてな。休日はよく東京に出て、様々な観光地を巡っては仕事の時にその話をしてくれたモンだ。2019年なんかは家族と一緒に来日していたこともあり、本当に楽しそうだった。
彼が短期免許の期間を終えて自国に戻る時には、いつも「また来年な!」という気持ちで見送っていたんだが、2020年に自国の競馬で落馬事故にあって、一時は意識不明の重体に。昏睡状態だった期間が1ヶ月くらいあったらしい。その後遺症で騎手としてのキャリアが断たれることになってしまったんだ。
その後は元気にしていると聞いていたんだが、先述の通り“うつ病”ということで、精神面で難しかったんだろうなと思う。あんまり適当なことは言えないが、個人的にはどうしても後藤浩輝のことを思い出してしまったよ。
彼も絶望的な大怪我からカムバックして、普段から周囲に対して明るく振る舞う傍らでああいう最期を迎えてしまったからな……。志半ばで“自分が思うように身体が動かせない、生き甲斐が断たれる”というのは想像を絶するくらいの辛さなんだろう……。
事故の影響で「競馬のことや日本でのことは覚えているのに、昨日や今朝のことは思い出せない」という記憶障害も抱えていたらしい。実情を聞けば聞くほどに言葉が出ないよ。
現場に出ている身としては、なるべくフラットな視点で情報収集を重ねることをモットーにしているが、長年この世界に居ると当然ながらより親密に付き合わせてもらう場面もある。それだけに、思い出話を話し出すとなかなか尽きないモンでな。今日ばかしは許してもらいたい。
そしてミナリク、どうか安らかに眠ってほしい。それを願うばかりだ。

佐山
栗東から美浦へ…ライバル陣営の情報は任せろ
ビッグボス堀江を師と仰ぎ、かつては同じく記者として栗東で活動していたベテラン。栗東を出たことのない根っから地元民だったが、ある時に関東情報の収集のため美浦に派遣されたことをキッカケに、今では『ライバル陣営』にあたる関東圏の勝負情報を一手に引き受けるリーダー的存在となった。
本人曰く『向こうの水が合っていた』とのことだが、実際は“遊び”の環境が揃う関東圏の生活が楽しくて仕方がないらしい。しかし、仕事には一途であり、その“遊び”も含めて関係者からの本音を引き出す技術は一級品である。